注意：
この記事は昨年ぶなが自室でG(黒いあれ)に遭遇したあまりにも大きなショックで、小説化したものをこちらに移植した記事です。
Gが苦手な方、食事中の方は何卒ブラウザをバックしてくださいますよう。
君との出会い
午前1時を少し回った時だった。
課題がひと段落し、寝る準備をしようと歯ブラシを口に咥え、ベッドの端に腰をかけた。
不意に視界を何かが走った。
茶色い、何か。
それが何かを認識するより早く私の口からは「まじか」という言葉が漏れた。
実家で見るそれよりは少々小さく、姿形が異なれど一瞬で認識できる日本全国標準認識物体。
俗にいう、ゴキブリというやつだ。
(以下、奴とする)
私は文字通り唾を飲んだ。
歯磨き最中の唾ごと、半分くらい飲んだ。
ここで暮らして数ヶ月、奴を見たのは初めてだった。
想定していなかったわけではない遭遇に、私は幾分か冷静だった。
標的から目を逸らすことなく、手近にあった武器を手に取る。先日実家に帰った際に親から支給された対奴スプレーだ。
奴を発見次第すぐに使用できるようにフィルムを剥がしていたのが功を奏したか、武器はすぐさま効力を発揮する。
ぴくぴくと軽快に触覚を動かす奴は私がノズルをむけ、プッシュした途端に喚き散らすが如く逃げていく。
逃すものか。
意気込んだのも束の間で、奴は玄関近くのカーテンが掛かった物置の隙間に入りこんだ。逃げる瞬間の弱々しい姿は見えていた。すかさず逃げ込んだ隙間に追い討ちをかける。
かけつつ、ちらと見る武器の仕様書には直接７秒かけることと書いてある。
「７秒！？不可能だろ！」
あれだけの速さで動く奴が７秒もの静止時間など与えてくれるものか。今更ながら使用しょを見る自分の容量の悪さに悪態をつきつつも、隙間への攻撃は止めない。
「......そろそろ、いいかな」
武器から手をはなし、咥えていたままの歯ブラシを濯ぐ。唾はもう飲み込んでしまったが、とりあえず口もゆすぐ。気分的に。
寝よう寝よう、と電気を消す手が震えているのがわかった。ボタンを押すと部屋は暗くなり、震えた手はそのままリモコンを床に落とした。がしゃんと鳴るその音にすらびくつく自分に、再び驚きながらリモコンを拾い、気づく。
「え、このまま寝れるか......？」
私は死骸を確認していない。すなわち奴を仕留めきったことを見届けていない。
そんな状態で眠りにつくことができるだろうか。
否、できない。
無理だ。
絶対無理。
私はリモコンを拾った手で電気をつけ、先の奴が逃げ込んだ隙間へ向かう。
隙間を覗く。当然見えない。スマホで照明を当てるが結果は同じだ。次にカーテンを揺する。私は知っている。奴が壁を登ることを。スプレーから逃げるために上に逃げることを。しかし嫌だ。見たくない。また目があったらどうする。叫ばない自信がない、深夜なのに。
私の恐怖は奴が見えないことにより最高潮に達していた。だが、このままでは寝られず、埒が明かない。
私は意を決してカーテンの裏と上を覗く。
......何もいない。
いや、正確にはどこからともなくコバエが飛んできて叫びながら後退りしたのだが、奴はいなかった。
涼しい夜のはずなのに汗がすごい。奴はどこに行ったんだ。
次に目に着いたのは物置にしていた箱の上部。タオルや洗剤が置いてある。一つ一つ丁寧にどかし、奴を探すも、見つからない。
仕留め損なったのか......？という嫌な想像まで頭をよぎる。諦めるわけにはいかない。私の睡眠のためにも。
その一心で玄関近くに置いてあったKURE5-56のスプレーに手をかけた。
「！！！」
いた。隣にひっくり返してあったスプレーの蓋の中に、どう入ったのか全くわからないが、その中に奴はいた。
先ほどまでの人を小馬鹿にするような軽快な姿は見る影もなく、縮こまって帰らぬ人、もとい、奴になっていた。
ぶわっ、と全身から鳥肌がたった。就寝の準備を始めてから30分が経過していた。私の快適な睡眠を妨げた奴を蓋ごと取り上げ、とどめとばかりにもう一度スプレーを噴射した。
今度はきっかり直接7秒だ。
オーバーキルなのはわかっている。そのままゴミ袋に詰め、さらにもう一度他のゴミ袋に詰め、念入りに口を縛る。
30分以上にも渡る激闘の末、私は奴に完全勝利した。
その後も手が震えて、全く寝られなかったのは言うまでもない。
二度とこんな目に遭うものかと、次の日奴が出る夢で早朝に目が覚め、朝一番でドラッグストアに対奴関連商品を3000円分ほど購入したのだった。
お誕生日おめでとう！というココカラファインの誕生月限定クーポンのレシートが憎らしかった。
お誕生日おめでとう、自分。
おまけ
昨年はこの奴以降、出会うことはなかった。
今年のぶなは昨年の経験を生かし、暖かくなる4月前から念入りに対策をしてきた。
今年の頭には奴ではなく、謎の飛行物体クロちゃんとの戦いもあった欠陥住宅である。
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果たして、今年はどのような戦いが生まれるのか、見物である......。
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